平野啓一郎さんの講演会を聞いて、分人主義にすごく興味を持ち、さっそく本も購入。
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本でさらに理解を深める
本書は、平野さんが語りかけてくれるかのように、分かりやすい文体で書かれていたので、あっという間に読めた。あとがきに「本書は口述筆記を元に、あとから私が全面的に手を入れる形で完成を見た」とあったので、この読みやすさは道理で!と至極納得。
本を読む前は、「講演会でいろいろ聞けたしな」と、ちょっと思っていたのだけど、本ではより詳しく、克明に具体例をたくさん挙げつつ「分人主義」について説明がしてあったので、もっと深く理解できて、そこがすごく良かったなと思う。
心理学者のアドラーは、「人間の悩みは全て対人関係の悩みである」と言っていたけれど、分人主義で生きていけば、対人関係の悩みの半分はなくなるんじゃないかと思う。それはつまり、分人主義の概念を取り入れて生きていけば、人生の悩みの半分はなくなるということだ。なんと素晴らしい。
「分人主義」とは改めて説明しておくと、平野啓一郎さんが唱える概念のことで、ざっくりいうと、一人の人間の中には、いくつもの人格(分人)があり、その複数の人格の集合体が一人の人間であるということ。
さらに簡単に言うと、私たちは、会っている人によって、立場によって、環境によって自分のキャラクターが変わる、時にはあえて変えていると言ってもいいと思う。このキャラを「分人」と平野さんは表現しており、自分とはのこのキャラたちの集合体である、ということ。
本当の自分は1つ=個人という考え方ではなく、いくつもの人格の集合体=自分(分人)であるという考え方。
以下、私の心を軽くしてくれた部分を紹介。
一方的に喋る人が苦手
私は自分のことばっかり話す人が苦手で、そんな人がいたら逃げ出したくなるのだけど、本書でそれはなぜ起こるのか、とても分かりやすく書かれていた。
コミュニケーションが苦手だと思っている人は、自分がうまく話せないからとか、自分に魅力がないからと自分を責めがちだけど、実はそうではないと平野さんは教えてくれる。
コミュニケーションがうまくいかない原因を、むしろ、相互の分人化の失敗というところから考えてみてはどうか?
つまり、お互いに心地よい分人化を進めるためには、相手がどういう人なのかをよく見極めなければならない。分人化には、人それぞれのペースがあるわけで、あっちにも喋りたいことがあるだろうが、こっちにも喋りたいことがある。そこを一方的に相手に喋られると、こちらはその聞き役を押し付けられることになる。
どういう話し方で、どういうテンポなら楽しく会話ができるのか?まだその手探りの段階で、いきなり相手の個性をゴリ押しされると、強い拒絶反応が起きる。
あぁ、これだな!と思う。こちらは相手に合わせて分人化しようとしているのに、相手はこちらなんてお構いなしに「これが私、私、私」を押し付けてくる。これに拒絶反応を示していたわけだ。
重要なのは、まず柔軟な社会的な分人がお互いの内にあることだ。
まずは、個性とか私らしさなんか出そうとせずに、社会的な分人を経た後、その人に合わせた分人を出せたらいいんじゃないか。
あと「ブレない人」が、かっこいい!すごい!憧れ!みたいな風潮があって、私はこれも苦手なのだけど(なぜなら自分がブレまくっていると思っているから)、この平野さんの一文を読んだら、そうだよね、そっちの方がいいよねと、うれしくなったのでした。
誰に対しても首尾一貫した自分でいようとすると、ひたすら愛想の良い、没個性的な、当たり障りのない自分でいるしかない。まさしく八方美人だ。しかし、対人関係ごとに思いきって分人化できるなら、私たちは、一度の人生で、複数のエッジの効いた自分を生きることができる。
悩みの半分は他者のせい
分人主義と言う概念の素晴らしさを一番感じたのがここ。
イヤな自分を生きているときは、どうしても、自己嫌悪に陥ってしまう。あの人と一緒にいると、どうしてこんなにイライラするんだろう? なんであんなにヒドいことを言ってしまったのか? あの会合に出席すると、急に臆病になって、言いたいことも言えない。
しかし、分人が他社との相互作用によって生じる人格である以上、ネガティブな分人は、半分は相手のせいである。
逆に言うと、ポジティブな分人も他者のお陰。つまり、私たちの人格そのものが半分は他者のお陰だということ。
分人主義の概念をインタビューに応用すると
私たちの人格そのものが半分は、他者のせいでもあり、他者のお陰でもある。これはライター業でインタビューをするときにも応用できる考え方だなぁと思う。たとえば、インタビューがうまくいかなかったとする。聞きたい話が聞き出せなかった。かなり落ち込む案件だけど、分人主義の考え方でいうと、半分は相手のせいである、ということになる。
ある本屋の店主・Aさん(男性)をインタビューしたことがあった。インタビューはうまくいかなかったということもなく、聞きたいことは聞けて、それなりに会話も盛り上がったし、楽しかった。過不足なく終わった。特に不満もない。
が、別のタイミングであるライターさんがAさんと話しているの見かけて、あぜんとした。Aさんは、私がインタビューしたときには見せたことのないような笑顔で、爆笑しながら大盛り上がりでそのライターさんと会話をしているのである。
その様子は、えぇ? Aさんって、そんな人だったの?と驚くほどだった。そして、私には見せない笑顔をあのライターさんには見せているわけだね、あぁ…と悲しく思ったけど、同時に、人には「合う、合わない」があるよねとそのときは思った。そして今なら、こうも思う。
お互いの分人化がそこまで進まなかったのだと。
Aさんと私は、社会的な分人化はお互いにできた、が、その先の個性を出せるような分人化まではいかなかった。それはもう、お互いの責任であって、半分は私のせいだけど、残り半分は相手のせいなのだ。私のインタビュー技術がそのライターさんより劣っていたということではない(と信じたい)。
とにかく分人化の概念で考えると、いろんな悩みが解決される。読み終わったとき、本当に心底スカッ!とした気持ちになれた。自己肯定感が低いと悩んでいる人にもぜひこの考えを知ってもらいたい。自分を肯定できるヒントがたくさん書いてある。
小説「空腹を満たしなさい」ではこのテーマが取り上げられているようなので、次はこの小説も読んでみたい。あぁ、素晴らしいな、ホント。
これから開催するインタビュー講座でも伝えていこうと思います。
平野啓一郎さんの講演会に行ったときのレポ記事はこちら。
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