「時間がない」という言い訳。

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もっと時間があれば、より良いものが作れたのにとか、あれもこれもできたのにとか、よく思う。

時間がない。時間さえあれば。

と、ずっと思っていたのだけど、そもそも時間がないのは、自分のせいである。時間がないのは自分のせいなので、時間がないために良いものが作れないというのも、結局自分のせい。

たぶんこういう人は、たっぷり時間があっても「もっと良いもの」は作れない。

私のことである。

たとえば、仕事で「急ぎで原稿を仕上げてほしい」と言われたとする。通常5日は猶予がほしい原稿だ。それを3日で書き上げてほしい。時間がない中、がんばって書く。そしてクライアントに言われる。この仕上がりではちょっと…。そして言い訳をする。「もっと時間があれば…スミマセン」とかなんとか。

私は思うのだけど、仕事を請けた時点で、この言い訳は絶対に言ってはいけないフレーズになる。なぜなら、時間がないという前提で仕事を請けているので。3日では自分の納得がいく原稿が書けないと思うなら、そもそも仕事を断るべきなのである。

時間がないから。

と、いろいろなことを諦めることがある。時間がないのなら、時間を確保するにはどうすればいいかを考える。仕事が忙しすぎるなら、仕事を減らしたり、誰かに頼んだりすれば、少しは余裕ができる。

時間がないからできないことがある。するための時間を確保することもできない。ならば、できないことがあるのは当然なので、そこを責めることをやめればいい。

なぜなら、時間がないのだから仕方がない。それなのに「時間がなくて、できない」と自分を責めるのはおかしい。

なぜこんなことを考えたかというと、村上春樹のエッセイ『職業としての小説家』を読んでいて、そのようなことが書かれていたからだった(私はこのエッセイを聖書のようにして、何度も読み返している)。

ある小説家が、「時間があればもっと良いものが書けたはずなんだけどね」と友人の物書きが言うのを耳にして驚く。もしその語られた物語が、力の及ぶ限りにおいて最良のものでないとしたら、どうして小説なんて書くのだろう?(中略)君の能力と才能を絞りきってものを書け。そして弁明をしたり、自己正当化したりするのはよせ。不満を言うな。言い訳をするな。

そんなエピソードがエッセイでは紹介されていた。村上春樹も、この意見に全面的に賛成だそうだ。「締切に追われていないと、小説なんて書けないよ」というレベルで、本当に良い小説が書けるのだろうか?とも言っている。

締切がないと原稿が書けないどころか、締切がないと何も行動できない私なので、本当に刺さる。

じゃあ、そういう村上春樹はどうしているのかというと、「時間がなかった」という言い訳をしなくてもいいように、締切があるような小説は書かない。自分のタイミングで書いて、これで書けた!と思ったときが小説が完成したとき。時間に追われていない。

だからこそ、「もう少し時間があればもっとうまく書けたんだけどね」なんて言うことは決してないし、「力の及ぶ限りにおいて最良のもの」を書くべく努力したと言い切れる。もしうまく書けていなかったとしたら、「その作品を書いた時点では僕にはまだ作家としての力量が不足していた、それだけのことだ」と言う。

この部分を読んで、書く時間を設ける、時間をコントロールすることまでを含めて、作家の力量なのだろうなと私は思った。文章力とか才能の問題だけではなく。村上春樹だからできたんだろうではなく、まだベストセラー作家になる前からこのスタイルを築くべく、環境を変え、整えてきたのだから、すごい。

たとえば、「体調を崩して、本番では100%の力が出せませんでした」という場合もあるだろうけど、その体調管理までを含めて、その人の力量というか。

もしうまく書けていなくて、作家としての力量が不足していたと分かったとして。それは「残念なことではありますが、恥ずべきことではありません」と村上春樹は言う。「不足している力量はあとから努力して埋めることができます」と。

私はそこに希望を感じた。

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この記事を書いた人

江角悠子

1976年生まれ。京都在住の文筆家・編集者、ときどき大学講師。ブログでは「ふだんの京都」をお伝えするほか、子育てエッセイも。コーヒー・旅・北欧・レトロ建築をこよなく愛す。