【つれづれコラム】船の上で、自由と幸福について考えた。

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昨年、家族で7泊8日のクルーズへ行ってきた。生まれて初めての船旅は、今まで行ったどんな旅とも違っていた。有り余る自由の中で、私は初めて本当の幸福を知った気がした。


港を出発した船が次の港に着くまで、船内では自由に過ごせる。食事は3食ともレストランに行けばいい(もしくはルームサービスが頼める)ので作らなくてもいいし、部屋が散らかっても、部屋を離れた隙にスタッフが掃除をしておいてくれる。そのほか、船の中にはプールや大型スクリーン、ちょっとした図書室やショッピングフロアまであり、日替わりでダンスや語学などの講座も開催されている。シアターでは連日ショーが催されるし、なんと子どもを預かってくれるキッズルームまである。

船旅で私が一番感動したのは、こんなにも自由な環境に自分がいることだった。誰からも制約されない、誰かのために何かをするのでもない。さりとて船上には巡らなきゃいけない観光名所もない。ただ、自分がしたいことをする。朝、目が覚めるたびに、この自由に、この喜びに浸った。

一方で骨身に染みて感じたのが、この自由を満喫することの難しさだった。それは食事の場面で顕著だった。クルーズではあらゆる料理が無料だった(とはいっても、旅費に含まれているのだけど)。コーヒーもジュースも飲み放題。スープやサンドイッチといったルームサービスも無料。プールサイドではカウンターで注文さえすれば、ハンバーガーもポテトもピザも無料で提供してもらえた。つまり、ざっくりと欲しいものは何でも手に入る状態にあり、私はかりそめに「有り余るお金を持っている感覚」を味わった。

でも…これが思ったほど、幸福とは思えなかった。その理由はこうだ。食べられる量(必要な量)には限界があって、いくら無制限に食べてもいいと言われたところで、必要以上のものは、もう単なる不要品でしかない。「何をどれだけ食べても無料だから」と貪り食べると、お腹が痛くなった。食べたいかどうかも考えず、ついつい欲張った結果、あとから本当に食べたい料理が出てきたときに食べられないこともあった。

旅のはじめの浮かれた数日を経て、私は気が付いた。

何でも手に入る自由を満喫するためには、まず「自分がどうしたいか」を自分で理解していなければいけない。どんなに自由でも、自分が何を食べたいか、どれだけ食べたいかを分かっていなければ、「自由」に振り回されているだけで、全然楽しくない。

このことに気が付いてから、私はどうしたいのか、常に私に問うようにした。本当にそれ食べたい?本当にそれが飲みたい?自分に問うことをして初めて、私は今まで全然「自分」に問うことをしてこなかったのだと気が付いた。船旅の後半、本当に食べたいものを食べたいだけ食べられるようになると、私はとても満たされた気持ちになった。そして、それはちょっとでよかった。どんなに恵まれた状態にあっても、最終的に「自分がどうしたいか」が分かっていないと、幸せにはほど遠いのだ。

日常で、家事に育児に仕事に追われていると、自分のことを振り返る時間はない。押し流されるように日々が過ぎていく。船の上で全くの、手放しの自由を手に入れて初めて私は自分がどうしたいのかを考えてみた。それは、とても豊かな時間だった。これこそが幸福だと思った。そして船を降りて気が付く。この幸福は船上だけにあるのではないと。普段の暮らしの中で、いつだって私は私に問えばいい。私はどうしたい?本当にそれをしたい?そうすることが幸福に近づく一歩なのだと。手に入れようと思えば、幸福はすぐ目の前にある。船旅で手に入れた幸福は、日常にもある。

私にとって、憧れの船旅に行けたということよりも、これに気付けたことが、なによりも幸福なことだったのだと思う。


このコラムは、青山ゆみこさんの「個人向け文章添削講座」の課題として書きました。

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この記事を書いた人

江角悠子

1976年生まれ。京都在住の文筆家・編集者、ときどき大学講師。ブログでは「ふだんの京都」をお伝えするほか、子育てエッセイも。コーヒー・旅・北欧・レトロ建築をこよなく愛す。