珈琲にハマって、ミルを購入して、豆から珈琲を煎れて楽しんだり、深煎りで酸味が少ない、ミルクに合うマイベストコーヒー豆を探し求めていた時期もある→その経緯を連載にもしていた「マイベスト珈琲を探して」
そして、私は怖い話が大好き。

そんな私にドンピシャ響いて手に取った本が、恩田陸著『珈琲怪談』である。読む前から分かってしまった。私はこれが大好物である。
ストーリーは、外科医、検事、作曲家、音楽プロデューサーという多忙な男4人が集まり、怪談を披露するというもの。場所を京都、横浜、東京、神戸、大阪、再びの京都と移動しながら、男4人がいろんな喫茶店、カフェでとにかくダベる。
その様子が実によい。楽しそう。男子4人が披露する怪談が、地味に怖い。ほぼ実話だそうで、それもまた怖い。
お話には、実際にあるお店が登場しているのもいい。居心地のいい喫茶店のガイドブックにもなりそうなくらい、魅力的なお店ばかり行っている。でも具体的な店名は出てこないのが、ちょっともどかしい。ただ描写が的確で、知っている人が読めば「あぁ、あそこね」と分かるのがまた良かったりする。
珈琲怪談I
・前田珈琲明倫店
・喫茶マドラグ
・カフェビブリオティックハロー!
・進々堂京大北門前
・六曜社 地下店
珈琲怪談VI
・虎屋茶寮
・カフェ工船
・アンデパンダン
ここに登場するお店はどこも行ったことがあるけれど、確かに間違いなくイイ。京都に来るなら行くべきお店だと思う。そのセレクトがさすがだと感じた。そして、知っているお店が出てくる場合、「あのお店をこんな風に描写するのか!」という面白さもあった。
そして、京都の店のセレクトに唸らされたのならば、ほかの東京、神戸、大阪で登場するカフェもまた間違いないのだろう。検索すれば分かるかもしれないが、土地勘がない私は、いまいち「ここか!」という確信が持てない。各地に詳しい人にこの小説を読んでもらい、どこのお店なのかを教えてもらいたい。
ただひとつ、大阪の章で登場したカフェがとても気になって検索してみた。
昔のSF映画のセットみたいだと書いてある。
かつての未来感溢れた、どこか懐かしいレトロな雰囲気が漂っていた。ミラーボールのような大きな電灯。曲線を多用したソファやテーブル。ガラスかと思えば、ところどころ鏡。天井は何やら月面のようなゴツゴツしたダークな意匠である。
の部分を読んで、これはどうしても行ってみたいと思い調べてみると、梅田の地下街にある「喫茶マヅラ」だと分かった。大阪万博の年にできた、「宇宙船」がコンセプトの喫茶店というのでヒットした。行きたい。
そして、肝心の怪談であるが、ホラーというより、ちょっとよく分からない不思議な話の方が多かった。お化け!というのでも、呪い!というのでもないけど、なんかそれはちょっと意味不明で怖いよね…という怪談。
一番印象に残っているのが、日本アルプスで登山をしたときの話し。テントを2つ張り、小さなテントに4人ずつギュウギュウに並んで寝る。山を登ったあとなので、当然みんな爆睡。ところが、夜中にぎゃあっという悲鳴が上がって、みんなが飛び起きると、テントの端に寝ていたやつが、「今、テントの外側から、誰かがオレの腕をスーっと撫でた」と言う。
自分たち以外は人の気配もない山の上、真夜中に、テントの外から、誰かに体を触られる。ちょっと想像してみて、ぞっとした。触られたヤツは、腕を掴む指の感触が残っていると言っている。薄いナイロンの上から見知らぬ誰かに…どんな恐怖ー!!!!となった。恐怖ー!!!!となった。
全編、謎が明確に解き明かされることのないゆるい怪談が続くので、まるで深夜のラジオ敏にでも耳を傾けているような緩い感覚で一気に読み終わってしまった。よく分からない雲を掴むような話もありつつ、おいしい珈琲を飲み、甘味を味わいながら、おじさん達がただ好きなようにおしゃべりする…のを、横にちょこんと座らせてもらって話を聞いているという感覚。全編、謎が明確に解き明かされることのない、ゆるい怪談が続くので、まるで深夜のラジオ敏にでも耳を傾けているような感覚で一気に読み終わってしまった。
よく分からない雲を掴むような話もありつつ、おいしい珈琲を飲み、甘味を味わいながら、おじさん達がただ好きなようにおしゃべりする…のを、横にちょこんと座らせてもらって話を聞いているという感覚。
私は好きだった。第2弾が出ることも期待したい。夏はやっぱり怪談だよね。