18年越しに叶えたこと。

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あるとき、金沢21世紀美術館で展示されるという作品の写真を見て、その作品があまりに衝撃的で、これは見てみたい!と思った。生まれたてのへその緒も取れていない、まだ目も開いていないような、生々しい赤ちゃんが、どう考えてもおかしい超巨大なサイズで、リアルに表現されている。作家名を確認するとロン・ミュエックとあった。

でも、京都に住んでいて、わざわざこの作品を見るためだけに金沢に行くというのは、当時の私にはとても贅沢に思えた。行きたい、行きたいと思いつつ、結局行けずに展示は終わり、私はとても残念だった。

こんなに生で見たいと思っているのに、最後まで「行く」という選択ができなかった自分に落胆した。そのとき、この作家名を心に刻んで覚えるようにした。いつかどこかで機会があれば必ずや。

そして今回、東京に行くことになったとき、ロン・ミュエックの展覧会が開催されることを知った。おぉ、ついにこのときが来たか…と思って、東京にいる友だちを誘って行った。一人でじっくり見るのもいいけれど、この面白さをぜひシェアしながら鑑賞したいと思って。

展覧会に行って、ロンミュエクの経歴紹介を読んでいると、金沢21世紀美術館で展示が行われたのは、18年前だと分かった。18年前? 私は18年ずっとこの人の名を心に刻み、いつか見たいと思っていたということか?と思ったら、ビックリした。けっこう長い。

18年越しに夢を叶えたのか私は。大げさだけど。そのくらい思い入れのある展示を見られて本当に楽しかった。

私がロン・ミュエクの作品に興味を引かれるのは、その生々しさだ。どうみても本物。生えかけのヒゲとか、顔のしわ、シミもも肌の質感も。どこからどう見ても人間としか思えない。なのに、完全にサイズがおかしい。このギャップよ。脳が大混乱する。

この腕の感じ、爪のつや、血管や肌の色味。まじまじと見る

理解できないものが目の前にある違和感。ちなみにこのおじさんが、ロン・ミュエク。自分の寝ている顔を作品にしたとか面白すぎる。まつ毛、おでこのシワ。重みで沈んだ頬、半分開いた口。

こんなに客観的に自分を見られるってすごいし、これだけ顔がリアルなのに、後ろに回ってみると中は空洞で、1枚のマスクのようになっている。

マスク(仮面)=虚像というか、これほどリアルなのに、見えているものは虚像?ということが言いたいのかもしれないと、解説にはあった。なるほど。

ロン・ミュエクは作品そのものもすごく魅力的だったけれど、展示の仕方も面白かった。

ここは骸骨が100個展示されている部屋。空気がちょっと重くてひんやりしているような感じもあって、作品なんだけど近づくと妙に怖くて、アウシュビッツのことを思ったりした。こんな風だったのかも知れない。恐怖を感じるほど。圧がすごかった。

あと、開放的な空間に作品を置くという展示ではなく、一人ずつ、個室をのぞき込んで作品を見るという体験もした。のぞき込むまではどんな作品か分からない。のぞき込んだときに作品に対峙する感じもけっこう衝撃で、思わず声が出た。えー、こんな感じ?

それにしても、このリアルな作品はどうやって作っているのか?素材は何なのか?展示では、作品作りの裏側もパネルで知ることができた。巨大な作品を作る前には小さなサイズを試しに作っているそうで、アトリエには、作りかけの生々しい人の顔というか、生首がいくつも転がっているように見えて、アトリエはさながら殺人現場のようだった。面白い。

それにしても、このささやかな夢を叶えるのに私は18年もかかったんだなぁと思った。来年カナダに留学するという夢も、大学生の頃から行きたかったと考えると30年越しである。

そういえば、中学生の頃、学校からアメリカにホームステイできるプログラムがあって、当然私は行きたいなぁと思った。行きたいけどお金がかかるし、親に迷惑をかけるなぁと思って、行きたいなんておくびにも出さず諦めたことがあった。

すると、母親が「行けば良かったのに。何で行かなかったの」と言ってきた。行きたかったならお金出したのにと、締切を過ぎてから。それを聞いて、母親と大げんかになった。ということを、なんか今思い出した。本当は行きたかったのに、行くのはわがままだからと思って、我慢して、誰に言うこともなく諦めたのに。なのに締切も過ぎて、「行けば良かったのに」なんて言われて、本当に悲しかった。当時の私は、「行きたい」と言っていいなんて思ってもいなかったのだ。

そういう、いろんな後悔を今、大人になった私が全部回収して、叶えてあげているような気がした。

今となっては、私が「わたし」の夢を全部叶えてあげるんじゃい!!という気持ち。それって、私がやっと「自分」とつながれるようになったからできるようになったことだなぁと思う。

というわけで、6/1からスタートする100日チャレンジ〜わたしとつながる書くレッスン〜は、残2枠となりました!

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ロン・ミュエク展は、9月まで森美術館で開催されています。もう一回行きたい。

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この記事を書いた人

江角悠子

1976年生まれ。京都在住の文筆家・編集者、ときどき大学講師。ブログでは「ふだんの京都」をお伝えするほか、子育てエッセイも。コーヒー・旅・北欧・レトロ建築をこよなく愛す。