広告代理店でデザイナーをしていたときに知った、一番驚いたこと。
それは、「全てのデザインには理由がある」ということだった。
それまで私は、デザインとは感覚や思いつき、何となくの雰囲気で決まるものだと思っていた。あとは、その人のセンス。直感?とにかく、そういうものでデザインされるのだと思っていた。
働いていた広告代理店ではイラストレーターやフォトショップというソフトを使って、チラシやカタログ、パンフレットのデザインをしていた。
チラシならA4の真っ白な四角い枠に、何をどうレイアウトするのか。
文字の大きさ、写真の位置など、最初は何となくでしか考えていなかったけれど、先輩デザイナーさんに教えてもらっていくうちに、どこに写真を置くか、何枚並べるか、文字をどこに流すか、その全てに理由があることが分かった。
極シンプルな例を挙げると、一番伝えたい目立たせたいことは、大きいフォントにする、目立つ色にするとか。
写真を何枚並べるかということも、紹介したい商品が10点あるなら、10点載るようにレイアウトするべきだろう。見た目の良さだけで並べると6枚くらいがちょうどいいから、6枚の写真を載せる…のではなく、10点掲載してこそ、チラシの意味があるというか。
そんな感じで、デザインの全てに理由があり、どこに納めるか感覚でレイアウトをしなくても、そうした理由にふさわしい配置を考えていくと、おのずとデザインされていくのだった。納まるべきところに納まるというか。
そうやってデザインされたものは、違和感がなく見ていても気持ちいい。安心感がある。
もう1つ、「デザイナーは、なぜこのデザインにしたのか理由を聞かれたら、それに答えられるべきである」ということも言われた。
なぜこの文字の大きさなのか。なぜこの色なのか。なぜこの順番に並んでいるのか。その全てに理由があるべきで、説明できないなら、それはデザインしたとは言えない、と。
感覚とかじゃなかったんだ!というのは、かなりの衝撃だった。
逆に、感覚ではなく理由があるのだから、私にもデザインできると分かったのは、すごく救われた気がした。デザインというと持って生まれたセンスのよさ、みたいな印象があったので、あとから身に付けることは難しいと思っていたが、そうではない。
理由があって結果がある。そんなすごくシンプルなことだったんだと分かってからは、デザインすることがすごく楽しくなった。
その後、これは文章でも同じことが言えるなと思った。
プロの書き手が文章を書くときも、なぜその言葉を使うのかすべて理由がある。
いろんな人の文章を添削するようになって、何となくこの書き方じゃない方がいいのでは…と思ったとき、その理由をきちんと説明できなければ、相手も直される理由が分からない。
それまでずっと感覚でやってきた修正を、そこで初めて言語化するようになった。
なぜここで「話す」ではなく「しゃべる」というワードを使った方がいいのか。なぜ、この順番で書いた方がいいのか。理由がある。
そして初めて気が付いたのだけど、私はどの言葉を使うか、どの順番にするか自分なりの理由があって書いていたということだった。私なりのちゃんとした理由があって書いているのに、文章を直されたりすると、よく腹を立てていた。
けれど、添削の理由を聞いて納得できれば、直すことができた。たまにクライアントさんでいたのが、理由が全く分からないのに修正されること。気分で直す人もたまにいて、そういうところと仕事をするときはものすごく消耗した(そしてフェイドアウト)。
ということを、この本を読んで考えた。
と、そんなわけで文章を書くのも、センスとか文才とか、感覚で書くと思っている人も多いかも知れないけれど、なぜこの言い回しなのか、なぜこの構成なのか、そのすべてに理由があるし、何でこの言い方なの?と聞かれたら、答えられるくらいに、使う言葉を意識しておくといいのかもしれない。
この本では全編を通して、センスは感覚じゃなくて、知識が土台になっているから、知識を身に付けたら誰でもセンスを発揮できるようになるよということが、とても具体的に述べられていた。
著者の水野 学さんは「くまモン」アートディレクションなどで話題の日本を代表するデザイナーさん。彼が、突飛な発想なんてしなくても、知識があればセンスは作れるし、売れるものは作れると、そのカラクリが明かしてくれている。すごい。
10年前の書籍なんだけど14万部突破だそうで、これは売れるはずだし、これからも売れ続けるんじゃないかと思った。
これは、友達が絶賛していたので出会った1冊だった。
アマゾンで検索してみると、オーディブルで読み放題になっていたので、ほぼ初のオーディブル読書である。耳で読むのと目で読む違い…やっぱり目で文字を追いたい気もする。